Homeレポート【090228】【連続セミナー・第5回】ポスト・アパルトヘイトの経験とイスラエル/パレスチナ

【090228】【連続セミナー・第5回】ポスト・アパルトヘイトの経験とイスラエル/パレスチナ

峯陽一(アフリカ地域研究/大阪大学人間科学研究科准教授)
鵜飼哲(フランス文学・思想/一橋大学言語社会研究科教授)

 二人の講師のうち、峯氏の講義からセミナーは始められた。
 峯氏はまず南アのアパルトヘイトの歴史を概括し、その中でイスラエル/パレスチナ問題との共通点をあぶり出すとともに、背景や抑圧の手法、国際社会の反応、そしてもちろん南アについては「解放」に至る最終局面までを含めて、両者の違いについて述べた。そして、それらの違いをふまえた上で、なお両者には構造上の共通点があり、同時代の闘争として汲み取るべき教訓があることも同時に確認した。とりわけ、人種別のタウンシップによる労働力の搾取、バンツースタンという被抑圧者の領域的共同体を擬似独立国家として温存する手法などは、現在に至るイスラエルの占領政策、及び「二国家分離」の真の狙いをも浮かび上がらせる側面を大いに有している。
 続いて峯氏は、南アとイスラエルの歴史的関係の変遷について解説。一般に知られるような協力関係が築かれる以前、ナチズムの延長たるアパルトヘイトの論理にイスラエルが嫌悪を示していたこと、そうしたイスラエルの態度の偽善性に南アの白人政権は憤慨していたこと、しかし1967年以降、アフリカ諸国を味方につけることに失敗したイスラエルは南アに本格的に接近していった、という曲折などが説明された。一方、南ア国内のユダヤ人の動向として、強力なシオニズム運動の存在とともに、南ア共産党の党員を中心に、自国のアパルトヘイト体制との共通性ゆえにイスラエルを根底から批判する人々が存在していたことも紹介された。

 もう一人の講師の鵜飼氏もまた、自身の南ア問題との出会いから日本社会の位置を示唆するとともに、南アとイスラエルの共通点と相違点を、歴史的類比と政治的類比の観点から考察し、今後の課題を提起した。
 とりわけ政治的類比から将来への道筋を考える時、南アのアパルトヘイト撤廃においては国連政治が有効に機能したのに対し、イスラエルに対しては(その建国の時点から)失敗のくり返し、という事実がある。かといって、今後の国連や国際司法機関の役割について、パレスチナ解放に向けて運動する側の市民として頭から退けるわけにはいかない、という視点が示された。
 また歴史的類比をよく理解して、イスラエル=ナチといった粗雑な政治的類比に頼らない姿勢も、私たち外の人間であるからこそ、必要であると訴えた。これは、結局のところ南アはその少数派の白人たちの間ですら一枚岩ではなかったという峯氏の話とも、イスラエル人の内部にも様々な立場(分裂)があるという参加者からの問題提起とも、響き合うもののように感じられた。
 参加者の質疑を通じては、鵜飼氏はさらに、イスラエルに対するボイコット・キャンペーンが南アに対して成功したと同じ経済的・実態的な打撃を与えることは期待するべきでないが、運動の大衆化を通じてイスラエルを支える政治経済のネットワークを可視化することはできるだろうと指摘した。

 峯氏もまた参加者の質問に答える形で、南アの「解放」後の現状について解説を付け加えた。新自由主義の流れに乗ったこの年月に、貧富の格差が広がり、階級対立が先鋭化していることを指摘。ポスト・アパルトヘイトにおいても、別の革命が必要とされていること、それは結局パレスチナでも南アでも、今の不動と思える現実とは違う未来を想像する力、カウンター・ファクチュアルな思考の重要性を確認して、セミナーは終わった。

(文責:斉藤)

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